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映画 There Will Be Blood(ゼア・ウィル・ビー・ブラッド)の感想と解説です

この映画との出会いはネットのとある動画サイトで、偶然の出来事でした。まぁ、世の中のほとんどが偶然ですけどね。はっきり言おう、為になったという意味で、人生でダントツ、一番の映画です。青天の霹靂とも言うべき、ひどく感銘を受けました。

ネット動画ですと、いつ消されるか分からないから、「見れなくなる!」と焦ったのは人生で初めてでした。「この時代でDVDを買うやつの気が知れない」と思っていた矢先、自分があちこちのCDショップを駆け回る羽目に。因みに、私はネットで買い物する習慣がないので。

ほとんどのCDショップに置いていなかったから、あまり人気がないのかなと。仮にそうだとしても、無理もない話だ、だって最初の14分間セリフがないからね。だいたい、アカデミー賞を受賞している作品は人気作品が少ないのです。

DVDも本もを買ってしまったら逆に見ないと言いますが、今回は違いました、何回を見たがは覚えていない、十何回とかじゃないですよ、下手したら100回超えています。一日中流しっぱなしの日もある、今もそうです。

吹き替えもありますが、しかしここはどうしてもダニエル・デイ-ルイスの声を聞くと吹き替えはもう・・・

字幕も英語にして、一字一句意味を調べて、繰り返し聞きました。最終的にセリフをほとんど覚えました。因みに、ダニエルは映画の中で100年前の発音を完全再現したそうです。

タイトルでは解説とか偉そうなことを言って申し訳ない、決して私みたいな者が簡単に解説できるような映画ではありません。ですから、今回の記事は見る人がいないと仮定して、自分の気持ちを整理するために書こうと。

基礎情報を紹介しておきます

There Will Be Bloodは2007年(日本は2008年)に公開され、アプトン・シンクレアの『石油』を原作としたアメリカ映画です。監督脚本ともにポール・トーマス・アンダーソンで、主演はダニエル・デイ=ルイスです。

第80回アカデミー賞では作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞。

主人公ダニエルのキャラクターは実在の石油王Edward Doheny(en)とドラキュラ伯爵をモデルにしています。牧師のイーライ・サンデーは、野球選手から福音派伝道師になり当時絶大な人気を得ていた実在の人物Billy Sunday(en)がモデルになっています。

あらすじ

19世紀末期、主人公のダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ-ルイス)は金山で金の発掘に従事していたが、その後石油発掘に転身する。仕事にストイックなダニエルは、オイルマンとして頭角を現し始める。

その時ダニエルを訪れた青年が500ドルと引き換えに、自分の家がある土地に石油が出ると教える。ダニエルは息子のH・Wと共にその土地に赴く。そこに無尽蔵の石油が眠っていることを確信したダニエルは、ありとあらゆる手段を使って土地を手に入れることに。

次第に、事業が成功し、ダニエルが裕福になり、有名にもなっていきます。

全編を通して重要な人物は他に3人います。息子のH・W、偽者の弟ヘンリー、そして牧師のイーライ。

この3人との関係性や出来事でダニエルの本性を赤裸々に描いていきます。

息子のH・Wと

息子のH・Wはダニエルの死んだ仕事仲間の息子で、後自分の息子として育てる。血は繋がっていないが相当可愛がっていた。しかし、これに関してはH・Wをビジネスパートナーとして利用していたという”疑い”もあります。

当時子供を連れて仕事をすると信用されやすいのです。実際、そうでした、商談の場に必ず息子のH・Wを連れて行きました。もちろん、これが理由で商談成立に持ち込んだこともあります。

とはいえ、人間は矛盾な生き物ですから、本当の息子として愛した気持ちはあるはずです。しかし、これは長く続くことはありませんでした。

サンデー牧場で石油を掘っていたとき、地下から吹き出たガスに吹き飛ばされたH・Wは失聴します。自称ダニエルの弟であるヘンリーがやって来て、その後、ダニエルは一度H・Wを見捨てることに。

H・Wを呼び戻した理由は、ヘンリーの死とイーランの教会で洗礼を受けたことです。洗礼のときイーライに指摘され、結構傷つきましたから。

このことが原因で、おそらくこれだけではないと思いますが、成人したH・Wはイーライの妹メアリーと結婚し、ダニエルから離れることになる。

偽者の弟ヘンリーと

石油を見事に当て、一躍有名になる。新聞でこのニュースを見たヘンリーはダニエルを訪ねる。

ダニエルの信頼を勝ち取ると、一緒に仕事をすることになり、のち、長年一緒に仕事をして来たパートナーを差し置いて、スタンダードやユニオンとの交渉にもヘンリーを連れていた。

しかし、これも長くは続かなかった、ユニオンと交渉して、その帰りでヘンリーが本性を現し、偽者であることがばれ、ダニエルに殺される。

牧師のイーライと

イーライとの因縁は全編を通して描いた。闘争心の強いダニエルは他人の成功を好まない。特に自分に勝つことは絶対に許さない。

サンデー家に5000ドルは払ったらいいのにと思うんですが、しかし彼にとっては単なるお金の問題ではありませんでした。

「サンデーファミリーにはウズラの分しか払わない」と彼が息子のH・W言っていたし、サンデー牧場は安く手に入るのはポールが情報ですし、彼もそのつもりで来ている。ここで5000ドルを払うのは失敗を意味するのです。

それだけではない、牧場を買い取る商談の際に、自分に挑んできた牧師でありながら、お金に執着するイーライを目の敵にした。これではなお更払うわけにはいかなくなった。

採掘作業が始まってから、イーライによる勧誘で教会に参加する人が出てきた。それによって寝不足を余儀なくされた従業員はとうとう事故を起こして、一人が死亡しました。ここから、二人の本格的な戦いが始まるのです。

石油が出たとき、金を要求してきたイーライをダニエルがボコボコにしました。

ダニエルにパイプラインを通させないパンディはイーライの教会に所属していたため、イーライの教会で洗礼を受けることを条件にダニエルにパイプラインを通させることに。これをチャンスにイーライはダニエルにビンタをしたりひどく侮辱しました。

やがて、ダニエルは使用人と二人で豪華な城に住むようになりました。そんなある日熟睡しているダニエルに尋ねてきたのがイーライでした。

熟睡しているダニエルは使用人とイーライが何を叫んでも起きないのに、「イーライだよ」と言った瞬間、目が覚めた。イーライに対する怨念がどれ程のものなのかが分かる。

唯一ダニエルに土地を売らなかったバンディが死んで、そしてその土地に眠る石油を採掘しないかと持ちかけてきたのだ。

ダニエルはイーライに「ぼくは偽預言者、神は迷信である」を言わしてから、殺した。

スタンダードオイルと

スタンダードオイルは二回登場しました。一回目はダニエルの会社を買収したいと交渉したとき、二回目はレストランで偶然あったときです。

ダニエルはスタンダードオイルの100万ドルを断って、ユニオンと取引をした。しかも二回ともダニエルがひどい形相で相手を侮辱しました。

ダニエルのビジネス規模でもこんな頑張らないといけないのに、もうスタンダードオイルは怪物級ですよ、たぶん。

主人公のダニエル・プレインビューはどんな人

簡潔に言うと「超嫉妬深い」「超執念深い」「超闘争心強い」「超ストイック」「超意思が強い」そして「超人間嫌い」です。

「欲深い」というのは否定したい。彼は欲深い人間ではありません。上で書いたような性格で生きていれば、結果的に「欲深い」に見えるだけのことです。単なる欲深い人間は、決して成功しないのです。

今回の作品では、淡々と人間の醜い部分を良し悪しを決めずに描いている。しかし、見ている人は決してダニエルを嫌いにはならない。少なくとも私はこの主人公が好きです。

人間ならだれにでもあるネガティブな感情で、向き合わなければならないものです。むしろ、社会的にこれらを無視しすぎているのではないかと思います。しばしば人間は自分たちを天使だと思ってしまう癖があるようで。

彼の人間嫌いや人間不信は並大抵なものではない、最終目的は誰とも関わらずに生きていくことです。

そのため、関わりのあるすべての人と関係を清算しておかなければならない。その象徴はイーライである。

ダニエルは家族に対する信頼が厚い、しかしそれは他人の対する不信感が強すぎて、それに比べて家族はまたマシということです。彼は一人になりたいんだから。

それなら、隠居生活などしてもいいじゃないかと思うかもしれませんが、嫉妬深いが故に、強い闘争心が故に、すべての人に勝利してから、十分なお金が貯めないとと、一人にはなれない。

「金をたくさん稼いで、他人と関わらずに生きていけるようになりたい」これがダニエルが抱えている最大の矛盾である。一人になりたい自分と、争う心を捨てきれない自分との戦いです。

目的達成までは、逃げるように戦い続けなければならない。

ダニエルは決して自分の過去を語ろうとしなかった、なぜお父さんと仲が悪いのか、なぜ妻と別れたのか、そもそも妻がいたかどうかも定かではない。ただ、家族との間で不祥事があったことは間違いないでしょう。

家族とうまく行かなかったから、こういう人間になったわけではありません。もともとこういう人間で、そのため家族とうまく行かなかったのです。

梯子から落ちて片足を骨折してしまって、歯を食いしばって足を引きずり上げながら穴の中から這いずり出ると、仰向けになって足を引きずりながら金を売りに行く姿、いったい彼はどれくらいの距離を這っていったのすら想像がつかない。これが彼の意志の強さとストイックさ故の出来事である。

あるいは、これが我々が勝手に思っていることで、彼自身にとって「意志の強さ」という概念がないのかもしれません、当たり前のことだからだ。なぜなら、彼には失敗や諦めの概念もないからです。

彼がいい人か悪い人かではなく、「そうしか生きられない人間」だ。生きることに関してはコストを考えない、そんな生き方、していみたいものです。

タイトル"There will be blood"の込める意味

旧約聖書出エジプト記の「十の災い」の一文、"There will be blood everywhere in Egypt."に由来、「いずれ血に染まる」を意味する。

神ヤハウェが、エジプトのファラオ(王)の圧制からイスラエル民を助けるため、エジプトに災いを与えようと、弟子のモーゼにさせたことが十の災い。エジプトの生活を支えるナイル川を、「死の川」にしてしまうことで、エジプトへ打撃を与えるという。

「blood」は血そのものの意味と血統の意味があるのではないかと考えられます。

”血”から考えればやはり、「流血や代償」は必然的だ、を意味するのではと思います。

”血統”からの考えますと、「遺伝」として「運命」になります。ダニエルもそうですが、イーライもこういう運命でこういう生き方しかできない人間だってことなのかもしれないですね。

女気は一切ありません

ラーメンの「一蘭」で例えたら分かりやすい、「味集中カウンター」方式です。アクション、華麗な映像、エロなどは一切ありません。言わばヒューマンドラマの専門店です。

導火線

ダニエルが穴を掘り、ダイナマイトを仕掛け、少しずつ穴を広くしていくわけだが、彼は当然それを全部一人でこなす。穴蔵の中でダイナマイトの導火線に火をつけ、それから梯子を上って外に出るわけだが、なぜ導火線は穴の外まで延ばしてから、火をつけないのか、そのほうが安全ですし。

まず、導火線の長さが足りない。そして、万一梯子から足を踏み外して落ちてしまったら、導火線を切ればいいだけの話です。さらに、そこまで深く掘っているんだから、導火線の点火から爆発までの時間を把握しているはずです。

H・Wが吹き出たガスに飛ばされたあとの音楽

サンデー牧場から石油が吹き出て、H・Wが飛ばされて、石油に火が付いて、そして火が消されるまでの音楽は何か? 

ズバリ、心臓の音です、正確には心臓の音を見立てた音楽。なぜなら、この瞬間がいろんな人の思惑や運命が交差する瞬間なのです。

H・Wの耳が聞こえなくなり、世界がしずまりかえ、残りは心臓の鼓動のみ。そして、これが一度見捨てられる原因でもあります。

ダニエルはここから大富豪へとなるが、H・Wのことが心配で複雑です。

遠くから炎を見つめるイーライは腸が煮えくり返るほどの後悔と嫉妬でいっぱいでしょう。

お見事です。

ダニエルはなぜイーライの妹メアリーに優しかったのか

息子H・Wのお気に入りだからだ。

当時の石油ビジネスの諸事情

石油が発見されて間もない頃なので、石油事業としては完全に成熟したビジネスとは言えない時代です。

土地を持っている人々、採掘技術を持っている人々、そして石油を販売する人々です。

ダニエルは採掘技術を持っている人です。確かな腕で数々の土地の石油を見事に掘り当てた経験を持つ。

スタンダードオイルは自社の土地を持ち、自社で採掘し、自社で販売する大きな会社です。

ダニエルのような人は地主と相談して、出た利益の一部を得る形です。

そして、鉄道とパイプラインです。掘った石油は運搬しなければなりません。鉄道の運賃がどんどん上がり、しかも効率が悪い。そんな中、パイプラインが登場し普及し始める。

石油はなぜ噴水のように数メートルまで吹き出るのか

石油は吹き出るときとそうでないときがあります。圧力があれば吹き出る、圧力が無ければ吹き出ない。

圧力は地形によるもので、サンデー牧場では丘の上で掘ったとしても、もっと広い範囲で見るとその丘は低い地点にあるはずです。なので、何メートルも噴水のように吹き出るのです。

息子のH・Wはなぜ火をつけたのか?

流れとしては、偽弟ヘンリーが持ってきたノートを見たあとの出来事なので、恐らくノートを見てヘンリーがダニエルの弟だと分かった、嫉妬したのではないかと思います。

事実、耳が聞こえなくなったから、ダニエルがちょっと諦め気味ですし。ここで何かアクションを起こして注意を引くのは子供にありがちな事です。

もしくは、単なる反抗期なのかもしれない。

弟が偽者であることをなぜ分かったのか

ユニオンとの交渉が成立して、息抜きに海岸で喋っていたときのことなので、どの言葉が引っかかったかなと思って、ずっと繰り返して見て、そして全編を通して内容の事実確認をしても分からなかったです。

「なんで分かったんだ?!」誇張じゃなくて、半年経っても分からなかったです。

この記事を書き始めてから、いろいろと整理していくうちに「あれっ」、もしや!これかもと思った。

要するに「感」です。事実あるいはどの言葉ではなく、全体的にヘンリーは自分とは違いすぎたとダニエルがふと思ったのです。

もちろん兄弟だとしても、全く同じ人間とは限らないが、ヘンリーとはあまりに違いすぎた。だらしない、弱気、そして何より女好きである。この映画ではここだけ”女”が登場するのですから、見ている側としても違和感を覚える。

この時点で、ダニエルはもうすでに確信していたのです。一応本人に確認を取り、自分は本当に弟はいるのかを聞き、、、そして初めて涙をする。。。

ダニエルが洗礼を受けたあと、耳元でイーライに何を言ったか

最後のシーンでダニエルが「I told you I would eat you up!」を言っています。この場合は「言ったはずだ、お前を食い尽くすと!」でしょうか。

なぜバンディの土地の採掘を断ったのか

バンディとは唯一ダニエルに土地を売らなかったおじさんのことで、イーライの教会に所属している。しかし、バンディが死んで、その孫がイーライに説得され、石油を掘ろうと決心します。

しかし、ダニエルはこのイーライの提案を拒否というか、この提案自体が成立しないのです。

なぜかというとダニエルはすでにバンディの土地に眠るほとんどの石油を採掘し切ったのです。傾斜ボーリング法、斜掘ともいう方法で。

仮に石油が残っているとしても、周りの土地がほとんどダニエルがもっているので、他の業者は成す術がない、石油を運び出せないのですから。

ダニエルがイーライに教えたイーライの兄(ポール)の話はうそ!

最後のシーンでポールについて、イーライに教えた話はうそです。 

ポールに1万ドルを現金で支払ったと言っていたが、実際500ドルしか払っていなかった。会社を経営して、油井3本、週に5000ドルというのもうそでしょう。その取引の後、ポールは消えたはずです。

ポールと仲が悪かったイーライを貶めるために言っただけです。

「I'm finished」意味

映画での最後のダニエルのセリフ「I'm finished」は、これ(イーライを殺したこと)で、もう関わりのある人はいなくなったと、人生の目標である「一人になる」ことが達成したのです。

もうやり残したことはない、、、の意味です。

みんなが好きそうなメーキングエピソード

豪華な邸宅のシーンは、Edward Dohenyがひとり息子のEdward "Ned" Doheny, Jr.に贈ったビバリーヒルズの豪邸、Greystone Mansion(en)で撮影された(息子は、この邸宅で妻の使用人に殺されている)。

ポールとイーライの双子という設定は、元々イーライは別の俳優がやる予定だった。監督が撮影を始めた際にイーライも演じてもらうことに決定し、ポールとイーライは双子という設定に変えたという。

俳優ダニエル・デイ=ルイスは20世紀初頭の録音記録や1948年の映画『黄金』を参考に1年間かけて役作りした。

同時期に同じく主演男優賞にノミネートされていたジョージ・クルーニーは結果発表前に「自分が主演男優賞を受賞?ダニエルがいるから無理だよ」と答えたという。

俳優ダニエル・デイ-ルイス

アカデミー主演男優賞を3回受賞している唯一の俳優
2012年4月の英Total Film誌よる「映画史に残る演技ベスト200」では『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』での演技でジャック・ニコルソン、ロバート・デ・ニーロに次ぐ3位にランクインした。
本名:Daniel Michael Blake Day-Lewis
生年月日:1957年4月29日
出生地:イングランド ロンドン
主な作品:『マイ・レフトフット』『眺めのいい部屋』『父の祈りを』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』